私は、現在「事業承継士」として事業承継問題の解決のために活動していますが、そのスタートは「この会社は、事業承継する価値があるか?」の判断からです。
後継者の中には、「しょうがないから継いだ」と、半ばあきらめ気味に債務超過の会社を承継してしまった方もおられます。
そして、返済の目処もなく、妥協し、暗中模索しているのです。
私の中では、基準があります。
現社長が65才を過ぎて、後継者不在で税引後当期利益+減価償却費の合計額が債務の10倍以上ある会社には、背中を押して早めに白旗をあげてほしいと考えています。
もう一つの基準が、後継者に承継しても事業に将来性が無く、新たな展開が予測できない場合も営業譲渡や廃業、破産、M&Aのご検討を願っています。
事業承継において、どの方向性を探るにしても欠かせないのが「見える化」と「磨き上げ」です。
よく事業承継の現場での「見える化」と「磨き上げ」は、財務・労務・法務などを指しますが、存続させるかどうかの判断には、戦略的な「見える化」と「磨き上げ」も必須です。
そこで今回ご紹介したいのが、『バランス・スコアカード』を使った戦略マップの作成なんです。
実は、この戦略マップというのは、ひと目で会社の経営戦略、問題解決までの道のりが分かるというとても優れたツールなんです。
今回は、少し難しいバランス・スコアカードをできるだけ分かりやすく解説してみたいと思います。
バランス・スコアカードというのは、1990年にハーバード大学のキャプラン教授と、経営コンサルタントのノートン博士が、ハーバードビジネスレビューで発表した経営課題を解決する為のフレームワークなんです。
このバランス・スコアカードの特徴は、4つの視点にあります。
経営課題を解決する為の要素を4つの視点にまとめて、様々な因果関係を見える化する事ができるというのが最大のウリです!
その視点は4つあります。
・財務の視点
・顧客の視点
・業務プロセスの視点
・人材と変革の視点
これらの視点を一つずつ見ていきます。
●財務の視点
財務の視点とは、売上や経費など経営に関わるお金の視点です。
経営はシンプルに考えていくと、「売上」を増やして「経費」を削減することに行き着きます。
利益=売上-経費
つまり、経営は利益を出し続けなければ存続することができないのです。
どんなに綺麗事を並べてみたところで、利益のでない仕事は続いていかないわけです。
バランス・スコアカードでは、残りの3つの視点を使っていかに売上を上げて、経費を減らすかを分かりやすく表現することができるのが特長です。
●顧客の視点
顧客の視点とは、簡単に言うと顧客満足度のことです。つまり、顧客満足度を高める視点。
どの会社も「顧客満足度の向上!」って叫んでいるわけですが、実際のところ本当に顧客満足度を高められている企業はそんなに多くはありません。
●業務プロセスの視点
業務プロセスの視点とは、仕事のやり方です。
多くの企業は、「ムリ」「ムラ」「ムダ」を省いて効率良く仕事をしよう、生産性を上げていこうと日々努力を行っています。しかし、その努力がムダだとしたら、どうしますか?
実は、多くの経営者がこの「業務プロセスの視点」を知らないために、中間管理者や従業員に大きな負担を強いているんです。
従業員が一生懸命仕事をしているのに成果が出ないのには、明確な理由があります。
その理由を、「業務プロセスの視点」で見つけて改善することができるようになります
最近、私はRPA(ロボテック・プロセス・オートメーション)を推進していますが、その理由の一つにこの業務プロセスの視点があります。
採用難・働き方改革関連法案・労働人口減少など中小企業にとっての難題の解決には、次の視点でも解説する「人材と変革の視点」との兼ね合いが重要となっています。
●人材と変革の視点
どんな企業でも、お客様にサービスを提供したり、製品を作ったりするのは「人」です。
そして、新しい技術や仕組みを取り入れて組織や仕組みを常に成長、変革させていく必要があります。
人材と改革の視点とは、「人材を大切に育て、常に変革、成長をする」という視点です。
これらの4つの視点を取りまとめて、次のような戦略マップに落とし込んでいきます。
バランス・スコアカードは、下から順番に上を目指して山を登るように見ていきます。
つまり、「人材と改革の視点」→「業務プロセスの視点」→「顧客の視点」→「財務の視点」のように下から上にたどっていきます。
では、早速、バランス・スコアカードを使った戦略マップの書き方を説明します。
1ビジョン・目標・ゴールの設定の設定
2重要成功要因の設定
3業績評価指標(KPI)の設定
4アクションプランの策定
では、順に解説していきます。
1ビジョン・目標・ゴールの設定の設定
バランス・スコアカードを作成するには、何のためにバランス・スコアカードを作るのかという「ゴール」が大切です。
ゴールを決めないことには、いったい何をしたらいいのかよくわかりません。
旅行に行くにも、目的地を決めないと交通手段、宿泊先、お土産を買う場所、観光する場所などが決まりません。
このイメージです。
2重要成功要因の設定
ゴールを決めたら、そのゴールに向けて何をするのかという「重要成功要因」を設定します。
重要成功要因とは、目標を戦略的に達成する為の重要な要因のことを言います。
この重要成功要因を見つける為に行うのが、以前にも解説しましたSWOT分析、クロスSWOT分析です。
重要成功要因は、後述するアクションプランとは違い、具体的な行動ではありません。
この重要成功要因を4つの視点の枠に当てはめていって、各重要成功要因を線でつないでいきます。
全員がバランス・スコアカードの戦略マップの見方を知っていれば、全社員に会社の戦略を一目で伝えることができます。
3業績評価指標(KPI)の設定
そして、バランス・スコアカードを成功に導くのが、KPIの設定です。
4つの視点にある数字を組み合わせることで成果を出すことができるようになります。
その数字とは、KPIとKGIです。
KPIとは、重要業績評価指標のことです。
要は、今どれだけゴールに対して近づいているかを計測する為の数字です。
次にKGIとは、重要目標達成指標のことです。
つまり、最終ゴールの数字です。
KPIを達成していくと、KGIが達成できるというロジックになっています。
つまり、このKPIは重要成功要因の経過測定に使っていきます。
重要成功要因が上手く実行できているかどうかを確認するための数字が、KPIなんです。
4アクションプランの策定
バランス・スコアカードを使って目標を達成する為の戦略が描けたら、日々の具体的な行動をどうするかをアクションプランとして落とし込んでいきます。
目標や戦略だけが決まって、日々何もしないなら絵に描いた餅で、何も変わらないってことになってしまいます。
さらに、このアクションプランに落とし込むときに重要な行動のパターンがあります。
その行動のパターンとは、「付加価値活動」と「非付加価値活動」です。
読んで字のごとく、「付加価値を生む活動」と「付加価値を生まない活動」があるということ。
付加価値活動とは売上に直結している活動、非付加価値活動とは売上に直結していない活動のことです。
では、いったいどんな活動が「付加価値活動」「非付加価値活動」なのか見ていきます。
例えば、「営業」という仕事は次にように分解してみますと、アポイント・資料作成・移動・商談・見積書作成です。
それは、商談です。
商談以外は、売上に直結している行動ではないので非付加価値活動と言うことです。
つまり、お客様個々に対して、如何に商談するかが営業にとってこの上なく重要と言うことなのです。
アクションプランは、重要成功要因をどんな付加価値活動で実現していくのかを設定していきます。
バランス・スコアカードは、会社の経営課題、問題を解決するためのフレームワークです。
そして、4つの視点から生み出される戦略マップと、KPI・KGIの設定、PDCAサイクルの実行で問題を解決し、成長させることができるようになります。
もし、事業承継をするかどうかで迷っているなら、後継者とバランス・スコアカードに挑戦してみてはいかがでしょうか?