事業譲渡で老舗企業が危機を乗り越えた事例

創業98年の老舗N社。四代目社長。

3年前まで借入過多ではありながらも順調に業績を伸ばしていた会社でした。

しかし、その業界全体が、急降下。

大手も一気にリストラ、M&Aに動き出すといった状況です。

この会社の異変に気付いたのは、N社長からのある相談でした。

「こんな商品を開発したいけど、どう思う?」

その商品は、既に市場に出回っており、もし開発できても後発であるために価格競争に巻き込まれることは必至。

その上、かなり本業からズレていると感じました。

そこで率直に尋ねてみたのです。

「焦っていますか?」と。

この質問ですべてを打ち明けてくれたのが、2年前のことでした。

急速に業績が悪化し、メインバンクからの借り換えもできない可能性があるとのことでした。

借り換えできる条件は、メインバンク主導のM&Aに賛同すること。

ここで注意していただきたいのは、金融機関中心のM&Aは、金融機関の利害が絡むために売却側の要望よりも金融機関の利益が優先されるという怖さが潜んでいるということです。

しかし、資金繰りの窮状を凌ぐためには、快諾するしかなく、メインバンクが選定した企業との交渉が始まったのが、1年半前でした。

メインバンク主導で動きだすと、私ができることと言えば精神的に寄り添いながら、私の経験と持ち得る限りの知識でN社長を支えることでした。

状況に応じて「私がN社長なら、○○と判断し、○○します。」と提言。

この繰り返しが1年半続いたのです。

買い手側企業の揺さぶりにN社長は、憔悴し、「いっそのこと倒産した方が楽かも」とか「君がいなかったら、自殺を考えていたかも」などと言った時もありました。

私自身も叔父の会社を畳むために出向している時に、一進一退の日々を繰り返していました。

社内外では、何食わぬ顔をしながら、心の中では鬼のような決断を下すタイミングを図っていたわけです。

だから、N社長の苦しみは理解できるのですが、諦めた時点ですべてが終わりです。

苦しい時ほど、金融機関や取引先に攻める気持ちを持って接すれば、打開できることも経験しました。

そこで倒産や個人破産のリスク、経営者保証ガイドラインの内容など、その時々の状況に応じて提言しながら、可能性が残されたM&Aに集中してもらいました。

そして、昨年12月初旬から繰り返された買い手側企業の取締役会。

この決議次第で倒産か?事業譲渡か?

何度も結論が先送りになった買い手側企業からの連絡を待つ時間の長さ。

1分1秒がこんなに長く感じることはありません。

そして、ようやく“事業譲渡”という形式で調印されることが決定しました。

事業譲渡は、ケースによって色々とやり方があるのですが、

N社の場合は、借り入れが多いために、会社の余剰資産の売却や連帯保証を

している経営者の自宅等の売却、そして営業譲渡時の買収額で金融機関の債務の

一部を弁済し、残りの債務は金融機関が放棄します。

N社は社名を変更し、廃業。そして、新たにN社を創業し、事業を継続するというスキームです。

自宅(建物自体は古いのでさほどの価値がないのですが、土地が広い上に地価が

高騰していたために華美な家と判定)は、売却しますが、

経営者保証ガイドラインにより、新たに華美でない自宅を買うことも承諾されたので、

最終的に自宅も確保できたわけです。

N社長は、歴史ある会社を自分の代で終わらせたことに自身を責めていますが、私は“戦略的勇気ある撤退”と思います。

振り返れば、「もう一度奮起して会社を建て直す」か、「他社に委ねる」か、N社長が迷った時期もありました。

そこで私は、「奮起して、どうにか建て建て直したとしましょう。

しかし、この借り入れで、後継者不在。

業界の先が見えない中で、その後どうされるのですか?」を尋ねたことがあります。

この質問が、N社長を最後まで迷わなくしたようです。

一時的な再建は、難しくはないと思います。

しかし、前述したように経営環境は大きく変わっています。

これからの事業戦略は、事業承継的発想抜きでは乗り切れないと再考させられた一件でした。

自社を俯瞰して将来を考えてください。